煉獄杏寿郎に惜しみなく与えられた自我

 

煉獄杏寿郎さん、いったいぜんたい心の中がどうなってるんだ。
燃えている、なんにもないだだっぴろい場所で足元が常に燃えている。ごうごうと燃えるのではなく、まるでなにかを燃やし尽くした後の残り火のように燃えている。


鬼滅の刃は16巻が発売されたあたりから読み始めました。
なので煉獄さんという人気なキャラクターがいて、かつ、煉獄さんは死ぬことをなんとなく知ったうえで読み進めていました。柱合会議の初登場は柱全員の強キャラ故のぶっ飛んだ言動にまぎれて、獅子舞みたいな髪のかっこいい人だぐらいにしか煉獄さんの印象なくて。無限列車編に入り「お、これが噂の無限列車か!」ぐらいの気持ちで読んでたら、煉獄さん、あなたはいったいどんなお人なんですか……?
っていう煉獄杏寿郎さんに対する支離滅裂なただの個人的な感想。

 


疑問のまま読み進めて約1年経ち映画を見たらなにか分かるかもしれない!と映画を見た。もっと分からなくなった。特別読み切りも読んだ、もっともっと分からなくなった。


①煉獄さんの意思はどこにあるの?

 

どうやら炎柱は代々煉獄家から輩出されるらしい、ある意味世襲している形になっているのかな。さらにお屋敷を見るに武士かなにか鬼殺隊が組織される前からの由緒正しい家柄のようだ。回想に出てくるお母さまの瑠火さんも「強き者には弱き者を守る責務がある」と諭しているので、そういう「地位のある者(高貴な者)には義務がある」価値観が煉獄さんの土台になっているのは分かった。
作中の煉獄さんはこの価値観を体現し乗客(弱き者)を守り、後輩を守り、責務を全うして朝日の中で息絶えた。愛するお母さまもそれを見守って煉獄さんは笑顔でこの世を去った。
そこまでは分かる。煉獄さん己を貫いてかっこいい。
でも、「杏寿郎」の部分が見えてこない。
杏寿郎という個人はさつまいもが好きで、面倒見がよく、優しくて人格者。それは煉獄杏寿郎の性格であって意思ではない。
煉獄さんって無限列車編という限られた話でしか語られないキャラクターなので、杏寿郎という個人は何を欲して何を成したかったのか気になって仕方ないんですよね。
いや煉獄さんの意思は無限列車で我々に見せたあの強烈な生きざまがすべてだと分かってるんですけど、杏寿郎という個人の意思が私にはまったく分からなくて。
①の冒頭で書いた通り血筋のある方なので個人の意思が家系の意思に従属しているのも承知しています。煉獄杏寿郎から煉獄家を引いたらキャラクター造形が成り立たない。すごいキャラクターだ、ぶれない。

夢の中で弟の千寿郎くんに「頑張って生きて行こう!寂しくとも!」と言っていたのが唯一、煉獄杏寿郎個人の感情が見えて安心しました。

 


②入隊時から幼さの削ぎ落された精神

 

特別読み切りの話です、零巻は手に入れられなかったので本誌の内容しか分かりません。

読み切りは煉獄さんの入隊直後のお話ですが、この時点で煉獄さんの精神が成熟している!鬼殺隊の人の多くが年齢にかかわらず過酷な経歴の持ち主なのでそう珍しくはないにしろ、幼さや精神的な若さが薄い……。
この時から鬼と戦って死ぬことが恐ろしくないんですよね(表面を見る限り)。動物の本能である死の恐怖をこの年齢でコントロール出来る域まで育っているんですよね。お母さまが亡くなりすぐにお父さまは自暴自棄になったので、おそろくは自分ひとりの力で。
煉獄さんは他の登場人物と違って鬼により虐げられたり肉親を殺されたりって描写が無いので難しいのですが、そういった復讐の理由が無い中でここまで私心を削ぎ落し理性を研ぎ澄ましているんですか。すさまじい。
最後のあおり文に「意志、心に灯る」って見つけて、なるほど煉獄さんには目標を成し遂げたいという確固たる意志が強いんだなと分かりました。

やっぱり意思の方は見えてこない、煉獄さんが分からない。

 


③煉獄さんの自我は周囲から与えられたもの

タイトルにある「惜しみなく与えられた自我」っていうのは私の大好きな石川智晶さん(アニメ鬼滅の刃にも音楽で参加されています)の曲「それは紛れもなく~選ばれし者のソリチュード~」の歌詞の一部です。
 

自我(自我とは - Weblio辞書)って言葉を使う時は、自我の芽生えとか、自分の中から生まれてくるものとして使うと思うんですけど、煉獄さんの自我って彼の生まれや母親の影響に大きく依ったものに感じます。
惜しみなく与えられた自我。己から生じた感情を凌駕する、他者に望まれた自我。

煉獄さんの無意識領域って燃えてますよね。彼の言葉通り心を燃やしてるソレなんだと思うんですが、煉獄さんが燃やしているものは「煉獄杏寿郎の私心」で、それを燃料に走り続けてきたのかな、と勝手に想像したら、煉獄杏寿郎さんがすごすぎて言葉を失いました。

 

長々と意味不明なものを書いて失礼しました。
煉獄さんは考えれば考えるほどよく分からなくて、それが自分にとって魅力的なキャラクターです。